願望?欲望?夢を叶える?サンカルパとは何か。
「サンカルパ」は、サンスクリット語で「意志」「意図」「誓い」などを意味します。
日本語に寄せていうと、覚悟という意味も近いかもしれません。
元がサンスクリット語なので、全く同じ意味をもつ日本語は思いつかないのですが、個人的には感覚的に「コミットメントメッセージ」という言葉で表現したりもします。
Swami Satyananda Saraswati の著書『Yoga Nidra』では、サンカルパは「人が人生において最も必要とする、内なる決意の宣言」と定義されています。
ヨガニドラにおいては、心身が完全にリラックスし、通常の認識レベル(意識)と深層心理(潜在意識)の境界が緩むタイミングで、このサンカルパを心の中で唱えます。
この行為により、サンカルパは深く無意識層に届き、内面的な変容の起点となります。
ヨガニドラにおけるサンカルパの役割
サンカルパ(Sankalpa)は、ヨガニドラを成り立たせる最も重要な要素のひとつであり、単なる希望的観測やポジティブ思考とは一線を画します。
これは、潜在意識に明確な意図を植えつけることで、精神的・行動的変容を促す技法であり、Swami Satyananda Saraswati によって体系的に構築されました。
実践のタイミング:ヨガニドラにおける2回のサンカルパ
Swami Satyananda は、サンカルパを唱えるタイミングを「ヨガニドラの開始直後」と「終了直前」の2回と明確に指示しています。
- 導入部でのサンカルパ:意識が落ち着き始め、集中力が高まりつつある段階で設定する。
- 終了部でのサンカルパ:完全にリラックスし、潜在意識にアクセスしやすくなっている状態で再確認する。
この2回のタイミングで、自身で決めた同じ意図を静かに繰り返すことが、サンカルパを深く根づかせる鍵となります。
サンカルパの作り方と満たすべき条件
Swami Satyananda は著書の中で、サンカルパが効果的であるための具体的な条件を、次のように示しています。
- 短く、明確であること(Simple and Clear)
- 5〜10語以内(英語の場合)で、一文に収まる表現が望ましい。
- 日本語だと20文字前後が目安です。
- 肯定的であること(Positive Statement)
- 否定形や回避的な言い回し(〜しない・〜ならないようにする)を避ける。
- 「〜である」「〜している」という形にする。
- 現在形であること(Present Tense)
- 「〜なります」「〜なりたいです」という未来の希望ではなく、「〜です」「〜しています」とすでに実現している状態を表現する。
- 「〜なります」「〜なりたいです」という未来の希望ではなく、「〜です」「〜しています」とすでに実現している状態を表現する。
- 個人の成長や変容に関係すること(Transformative Purpose)
- 外的な結果や欲望的な望みよりも、内的な資質の育成や変化に焦点を当てる。
- 例えば、金銭の達成、勝敗や順位への希望、物欲などが外的結果や欲望的な望みにあたります。
- 「自分がどう在りたいか」を思い浮かべてみる。
他との比較:「ヨガニドラ」と「アファメーション」と「引き寄せ」の違い
サンカルパは、アファメーションや引き寄せの法則としばしば混同されがちですが、目的とアプローチにおいて明確な違いがあります。
まず「アファメーション」は、主に「自己肯定感の強化」を目的とした心理的テクニックであり、日常的に繰り返すことでポジティブな自己像を潜在意識に刷り込もうとするものです。
一方、「サンカルパ」は、単なる自己イメージの強化にとどまらず、個人の霊的成長や性格的変容といった、より本質的・内面的な進化を目指します。
また「引き寄せの法則」は、強い感情とともに願望を視覚化し、宇宙的な力を活用して現実化を図るという考えに基づいています。
これは物質的・外的成果に重きが置かれる傾向がありますが、サンカルパは ”何を得るか” ではなく ”どんな自分で在るか” に焦点を当てています。
さらに、実践のタイミングにも違いがあります。
アファメーションは起床時や日中の繰り返しに適しており、引き寄せは感情が高まった瞬間を利用しますが、サンカルパは意識が沈静化し、潜在意識との境界が曖昧になるヨガニドラ中に行う点が特徴です。
(補足:サンカルパをアファメーションのように日常的に意識することは、全く問題ありません。)
このようにサンカルパは、ヨガ・タントラの伝統に根ざした、極めて内省的で構造化された実践であり、日常のモチベーション維持や願望実現とは異なる次元での作用を目指しています。

サンカルパの例と選定のガイドライン
効果的なサンカルパを構築するには、自分の現状と向き合い、真に必要とする変容を見極めることが重要です。
代表的なサンカルパの例
- 私は内なる静けさと調和しています。
- 私は恐れなく自己を表現しています。
- 私は自己の本質に沿って生きています。
- 私の心と体はとても健康です。
選定の際には次の点に留意しましょう
- 実現の可否ではなく「本質的にそう在りたいか」を基準にする
- 長期的に向き合えるテーマであること
- 毎回同じサンカルパを使用し、継続して実践できるもの
サンカルパの効果と実践上の注意点
Swami Satyananda によれば、サンカルパは「人生の方向性を再定義する力を持つ」とされます。ただし、これは即効性の変化をもたらすものではありません。
- 日々の実践において、サンカルパは徐々に内面の抵抗を和らげ、自然な変容を促す
- 結果に執着せず、プロセスとしての変化に信頼を置く
- 他者の言葉を借りるのではなく、自らの深層から湧き出る言葉を大切にする
特に三つ目はとても大切です。人と比較したり、「誰かがこれにしているから私も」では、自分が本質的に持ち合わせている想いから遠のいてしまいます。
ですので、ヨガニドラでは自分の内面と向き合い、湧き上がる言葉を汲み取る能力を養うことも大切になります。
また、途中でサンカルパを頻繁に変えることは推奨されておらず、少なくとも数ヶ月間は一貫して同じ言葉を用いることで、潜在意識への定着が促進されます。
終わりに:サンカルパで意識的な人生への第一歩
ヨガニドラにおけるサンカルパは、単なる「癒し」や「気持ちの良さ」を超えた、意識的な自己変容の技法です。
精神的な成長や変化を望むのであれば、外に何かを求めるのではなく、自らの内面に静かに言葉を置くという行為こそが、最も本質的な第一歩になるでしょう。
あなたの言葉は、あなたの未来の種です。その一文が、これからの人生の軸となるかもしれません。
是非、ご自身のサンカルパを見つけてみてください。
さらに詳しく学びたい方へ、海外書籍のご紹介
私が初めてヨガニドラを深く学んだのは、インドのアシュラムでの滞在中でした。
そこで出会ったのが、Swami Satyananda Saraswati 著の『Yoga Nidra』という一冊です。
この本は、ヨガニドラの理論だけでなく、「サンカルパ(内なる意志)」の働きについても、とても丁寧に解説されています。
私がこの本を主軸に学びを続けている理由は、とても論理的(ロジカル)で実践的(プラクティカル)であるから。
実際にアシュラムでの実践と並行してこの本を読み進めたことで、ヨガニドラの目的が「単なるリラクゼーション」ではなく、深層意識への働きかけであることを体感しました。
サンカルパという言葉にピンとこない方や、より実践的にヨガニドラを理解したい方には、ぜひおすすめしたい一冊です。